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梁惠王篇 七章⑦

宣王が周囲の国々と戦争をするのは、もちろん、美味しいものをもっと食べたいわけでも、心地よい衣服をもっと着たいわけでも、美女をもっと侍らせたいわけでも、美しい音楽をもっと聴きたいわけでも、使い勝手のよい近習がもっと欲しいわけでもありません。一国の王ですから、そんなものはいくらでも手に入ります。宣王は、斉をもっと強大な国にして、他の強国(秦・楚・韓・魏・趙・燕)に号令をかけるような覇者になりたいのです。また中国の周辺にいる、東夷・西戎(せいじゅう)・南蛮・北狄(ほくてき)といった中華文明に浴していない民族をも、従え手なずけたいのです。

しかし、今のやり方だと、その目的は決して成し遂げられない、と孟子は言い切ります。

【訓読文】

王いわく「是(か)くの若(ごと)く其(そ)れ甚(はなは)だしきか」

いわく「殆(ほとん)どこれより甚だしきもの有り。木に縁(よ)りて魚を求むれば、魚を得ずと雖(いえど)も、後の災い無し。若(か)くのごときの為(な)す所を以って、若くのごときの欲する所を求むれば、心力を尽くして之を為して、後に必ず災い有らん」

いわく「聞くことを得べきか」

いわく「鄒人(すうひと)と楚人(そひと)と戦わば、則(すなわ)ち、王、以って孰(いず)れが勝つと為さんや」

いわく「楚人こそ勝たん」

いわく「然らば則(すなわ)ち、小は固(もと)より以って大に敵すべからず、寡(すくな)きは固より以って衆(おお)きに敵すべからず、弱きは固より以って強きに敵すべからず。海内(かいだい)の地に方千里なるもの九つあり。斉は惟(ただ)其の一つを有(たも)つ。一を以って八を服せんとするは、何を以ってか鄒の楚に敵するに異ならんや。蓋(なん)ぞ亦(ま)たその本に反(かえ)らざる。今、王、政を発(おこ)し仁を施さば、天下の仕うる者をして皆王の朝(ちょう)に立たんと欲せしめ、耕す者をして皆王の野に耕さんと欲せしめ、商賈(しょうこ=商人)をして皆王の市(いち)に蔵(おさ)めんと欲せしめ、行旅(こうりょ=旅人)をして皆王の塗(みち)に出でんと欲せしめ、天下の其の君を疾(にく)む者をして皆王に赴愬(ふそ)せんと欲しめん。其(も)し是(か)くの若(ごと)くあらば、孰(たれ)か能(よ)く之を禦(とど)めんや」

【現代語訳】

王がいわれた「そんなに無理なことだろうか」

孟先生はいわれた「いや、それよりももっと無理でしょう。木によじ登って魚をとろうとするのは、魚をとれないとはいっても、後々の災難を招きはしません。しかし、今のようなやり方でこのような大望を成し遂げようとされるのは、いくら全力を出し尽くしてもできないばかりでなく、後々(諸侯の怨みを買って)必ず災難を招くでしょう」

王はいわれた「そこのところを、もっと聞かせてはくれまいか」

孟先生がいわれた「では今、鄒と楚が戦ったとしたら、王様はどちらが勝つとお思いですか」

王がいわれた「それは、もちろん楚が勝つであろう」

すると孟先生がいわれた「そのとおりです。ということは、小は大にはかないません。寡は多にはかないません。弱は強にはかないません。今、天下には千里四方(一辺が五四〇キロメートルの広さ)の大国が九つあります。斉は、ただそのうちの一つにしかすぎません。一つの国で残りの八つの国々を征服しようというのは、鄒が楚を相手に戦争をしかけるのと、なんの違いがありましょう。(目的が達せられるはずのない無謀な戦争をなさるよりも)なぜ政治の根本に立ち返えられないのですか。今、王様が政治を改め、仁政を施されたなら、天下の役人はみな王様の朝廷に仕えたいと望み、農夫はみな王様の田畑で耕したいと望み、商人はみな王様の領内で商売をしたいと望み、旅人はみな王様の領内を通ろうと望み、他国の民で君主を怨んでいるものはみな王様のところへ来て訴えたいと望むことになるでしょう。もしこのようになったら、誰がいったいその流れをとめることができましょうか」

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